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2025年05月27日 [横浜の通船・ラインボート ]
船の左右はなぜ「ポート」と「スターボード」?──その理由と“命を守る灯り”の話
はじめに
いつもポートサービスのブログを読んでくださり、ありがとうございます。
以前のブログでは、船の「トモ(後ろ)」と「オモテ(前)」という船舶用語についてご紹介しました。今回のテーマは、船の「左右」。左舷と右舷を表す言葉「ポート」と「スターボード」についてです。
船に関わるお仕事をされている方にはお馴染みかもしれませんが、「なんで英語?」「レフト・ライトじゃないの?」と不思議に思いませんか?
今回は、その由来や意味をわかりやすくご紹介します。

スターボードとポート──呼び方に隠された理由
船の世界では、「右」「左」ではなく、「スターボード(右舷)」「ポート(左舷)」という呼び方が使われています。これは、世界中の船員や港湾関係者が共通の認識でやり取りできるように決められた“国際共通語”です。
では、なぜ右がスターボードで、左がポートなのか?
それには、古代の船のつくりが大きく関係しています。
なぜ右舷が「スターボード」なの?
「スターボード(starboard)」という言葉は、古英語の“steorbord(ステアボード)”に由来しています。意味はそのまま、「操縦板」を表す言葉です。
昔の船には、今のように船尾中央に舵がついていませんでした。その代わりに、右舷側に大きな櫂(かい)=操縦用の板を取り付けて、船の進行方向を調整していました。
櫂(かい):現在のオールのような形をした木の板で、水をかくことで船を進めたり、方向を変えたりする道具
多くの船乗りが右利きだったため、右側に櫂を設置するのが自然で扱いやすかったと考えられます。そんなわけで、「操縦板のある右側」=「ステアボード(操縦側)」「スターボード」と呼ばれるようになりました。
なぜ左舷が「ポート」なの?
では、なぜ左側が「ポート(port)」と呼ばれるのでしょうか?
実はこの言葉、「港(port)」に由来しています。
昔の船には右舷側に大きな操縦用の櫂(かい)が取り付けられていたため、港に接岸する際は、櫂を傷つけないように左舷側を岸に向けて停泊するのが一般的でした。こうして、「港に面する側」=「ポート(port)」という呼び方が定着していきました。
ちなみに、かつて左舷は「ラーボード(larboard)」とも呼ばれていました。しかし、右舷の「スターボード(starboard)」と音が非常に似ていたため、航海中のやりとりで聞き間違いが頻発。これは命に関わる重大なミスにつながる恐れがあるため、19世紀ごろを境に「ラーボード」は廃止され、「ポート(port)」が正式に採用されるようになりました。
この背景は、「左」「右」を英語で単に “レフト” “ライト” と言わない理由にも通じます。Left と Right は発音が似ており、Light(光)や Write(書く)と混同されやすいため、海上の緊急時や無線通信では特に不向きです。
だからこそ、聞き間違いにくく、意味が明確な「ポート」と「スターボード」が、現在も世界中の海の現場で使われ続けているというわけです。

命を守る“色のサイン”──夜の海と航海灯
言葉だけじゃなく、夜の海では「光」でも左右を見分けられるようになっています。
それが「航海灯(ナビゲーションライト)」です。
- 左舷(Port)側:赤
- 右舷(Starboard)側:緑
- 船尾(とも):白
これらの色は世界共通。たとえば、前方に赤→緑と見えたら、相手の船は左から右に向かって動いているということ。
逆に赤しか見えなければ、その船の左舷側を自分が見ている(イラスト参照)──つまり、自分の前を右から左に横切っているという意味になります。
この「色のルール」があることで、夜間でも衝突を避けるための判断ができるのです。


おわりに
海の上では、たったひとつの言い間違いや見落としが、大きな事故につながることもあります。
だからこそ、左右を「ポート」「スターボード」と言い分ける明確な言葉や、航海灯、国際信号旗といった視覚のルールが、安全な航海のための大切な決まりとなっています。
次に船を見かけたときは、「どちらがポート?」「ライトの色はどうなってる?」とちょっと観察してみてくださいね。海のルールがぐっと身近に感じられるかもしれません☺️
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参考文献
ポートとスターボード (Port and Starboard)
ヨット用語に戸惑う 〜スターボードとポートと呼ぶ理由
左側のドアから飛行機に搭乗するのはなぜ? - Mitsui OSK Lines, Ltd.